本当にご多忙な中、ありがとうございます。世田谷区ではたくさんの先進的取り組みをされていますが、本日は特に、世田谷区が進めているデジタル化に関して、ぜひ勉強させてください。
行政サービスのIT化、デジタル化は区長になってからの11年間で進めてきたが、やはりIT活用が進んでいる民間出身のITに詳しい人材が必要だ、と考えて、さまざまな方面に声をかけて適材を探した結果、今年春から民間IT企業出身の松村さんに副区長として就任して頂いた。いまは、松村副区長を中心にIT活用、DX推進をすすめている。
品川区でもぜひ進めていきたい、素晴らしい取り組みですね。松村副区長は、民間から公への転身となると、大変な部分もあったのではと思いますが?
私が当時働いていたサイボウズの青野社長に保坂区長がコンタクトされたことがきっかけ。私も世田谷区民で、かねてからサイボウズで官民連携や福祉業界の課題解決の仕事を手掛けていて、行政の中でITの仕事をすることに対して、面白いと関心を持っていた。社長から話を頂いた後はとんとん拍子で話が進み、今年から副区長として参画させて頂くことになった。
品DX改革にあたって力を入れておられるところや、チャレンジは何でしょうか?
区役所のIT化・DX推進は、総務省などのガイドラインや庁内外の様々な規則があり、例えば電子メールの添付ファイル1つとっても、それを受け取るには面倒な手続きがある。しかし現在の規則を当たり前と思って受け止めるだけでは改革はできない。関係各所とひとつずつ粘り強く対話し、業務効率を改善するための取り組みをすすめている。また、単にITツールだけ変えても仕事の仕方が変わらなければ改革はできない。区役所の従来の仕事のやり方や意識の改革、風土改革こそが、DX改革の一番のポイント。
世田谷区のような先進的な自治体が、既存の制度や風土にチャレンジしながら新しい提案をしていくことは、これからの日本にとって本当に必要なことですね。ところで、区民サービスの面では、どういった点に力をいれているでしょうか?
電子申請手続きや情報発信などのシステムは、行政内部の業務システムの改革に比べて制約が少なく、進めていきやすいだろう。業務系のシステムは、中央省庁によるガイドラインなど、色々と変えていく上でのハードルが高いので、粘り強く時間をかけて進めていくことが求められる。
世田谷区は非常に広いので、区役所や支所だけでなく、区内に28か所の拠点を設けて、こちらで様々な行政手続きや行政サービスの相談を受けられるように、整備を進めている。こういった行政サービスの裏側で、IT活用による利便性向上を進めている。
DXとは別の話だが、例えば、昼間しか開館していない公営施設で、夜に区民の皆さんの集会・サークル活動などで活用してもらうため、夜間に出入りできるよう警備員の予算をつけたことがある。警備員の人件費だけで、それ以外にはほとんど経費が掛からずに、区民の利便性を大きく向上させることができた。DXで利便性を向上させていくときも、従来のルールを当たり前と捉えずに、クリエイティブに工夫をしていく発想が重要。
区民が利便性を実感できる取組みで、素晴らしいですね。また、世田谷独自の地域決済通貨であるせたがやPay、これは非常に成功していますね。
せたがやPayは、あるベンチャー企業と組んで進めているのだが、コロナ禍で苦労した中小商店街と物価高に苦しむ区民の方々の支援のために、せたがやPayを使うと利用者は30%割引、店舗も5%のプラスキャッシュバックがあるキャンペーンをしたところ、非常に好評だった。
今では加盟店は3000店舗、アプリのダウンロードも18万人で、地域決済通貨としては大成功している。こういった取り組みは、単に補助金や地域振興券を配布するよりも効果的だと考えている。また、単なる決済手段としてだけでなく、18万人のビッグデータを活用して、例えばコロナ対策に関する情報提供など、いろいろな場面での活用をしていくことができる。
ありがとうございます。最後に、行政の立場でデジタル(DX)改革をすすめていく上でのポイントについて、ぜひアドバイスをお願いします。
先ほども話したとおり、DX改革は風土改革。システムだけを入れても働く人の意識、仕事の仕方が変わらなければ何も変化しない。意識改革が最も重要。
行政の世界では、いちど予算を決めたら、それを使い切ることが重要。予算をきっちり使い切った人の方が、工夫して余らせた人よりも評価される。また、どうしても区民とは距離があり、クレームを恐れて、区役所のカウンターの中で仕事をする風土がある。DX推進にあたっては、まずはそういった評価基準、風土を変えていくことが重要。また、最近は役所でも、例えば職員のメンタルや若手・中堅職員の離職といった問題が、以前より増えてきている。区役所の職員と丁寧に対話して問題意識を共有し、一緒に改革を推進していくことが求められている。
まさに、リーダーと現場がチーム一体となって取り組んでいくことが成功のポイントですね。大変勉強になりました。本日はありがとうございました。